鳩居堂のマナー
ある日のこと。香典袋を探しに、銀座の鳩居堂へ足を運んだ。香典袋がいちばん大切なわけはないし、それはわかっているものの、コンビニエンストアで売っているようなものはちょっと、という家人にかわって伺った。
で、家人が気になっていたという六百円以上するものや、二百円台のものなどいろいろ見る。正直、さすがは鳩居堂というべきか、どれも立派で品が良く、二百円台のものでも十分に思えたものの、六百円のものについても店員の女性に聞いてみた。
すると、特に決まりはありませんが、こちらは何十万円もお包みするときですよ、と教えていただき、二百円台のものを買い求めた。
そして帰ろうとすると、店員の女性が近づいて「お客様が購入されたのは、御霊前でしたか」とおっしゃるので、中身を確認したらやはり「御霊前」だった。
私もそのつもりで買っていたので「告別式が何式だとか宗派がわからない場合は」御霊前といいかと思ったんですけど」と話し、「その方の宗教もわからないので、御仏前はよくないんですよね?」と僕が言うと、「いえ、御仏前は四十九日を過ぎてからお渡しする場合で、お亡くなりになって間がない場合は御霊前なのです」と教えてくださった。
その言葉に「えっ!?」と思った私が、「じゃあ、キリスト橋の方の場合はどうなんですか」とお聞きすると、「その場合は、こちらに『お花代』と書かれたものがございまして」と別の香典袋を教えてくださった。
その女性は、左胸の名札に「見習」と書かれていたように思うが、気持ちのいい応対だった。「買ってくれればいい、儲かればいい」とはまったく違う。さすがは鳩居堂、と感心した出来事であった。午前十時過ぎから店内は賑わっていたが、流行る理由がわかるわ、と思った。
『鳩居堂の日本のしきたり豆知識』
監修:鳩居堂
発行:マガジンハウス