余計なことを言わないことが重要である

 
ある詩集を読んでいたら、レイモンド・カーヴァーのことが書かれていて、おやっ、と思うと同時に、なかなか面白い内容だと感じたので引用させていただくことにする。引用部分は、250ページ以上ある文庫本のうち、12ページ分にあたる。
 

 
日当たり
 
土曜日の夜
ワインで少し眠くなった頭で
レイモンド・カーヴァーの
『ファイアズ(炎)』を
黙々と読んで
あれこれと考えている

『ファイアズ(炎)』は
カーヴァー全集の
第四巻目で
エッセイ

短編小説が収録されていて
ぼくは

エッセイの部分を
読み進めているところ

カーヴァーは
四十歳になるまで
人生の
日当たりの悪い場所にいて
地上に出てから
十年ほどで
地上を離れ
あの世へと
旅立って行った

この世のどこにも
彼はもう
いないが
作品だけは
存在し続け
その作品の中で
彼もまた生き続けている

ファイアズ
すなわち
炎とは
火山の噴火でもなく
山火事でもなく
戦火でもなく
ライターの炎でもなく
煙草の火でもない
煙草の火にも
詩的想像力を
喚起する力があるが

ぼくの
薄っぺらい胸の中にも
同じ
炎が
燃え続け
心を
焦がし続けている

そして
その炎は
人の
心から心へと
燃え移り
強風によっても
吹き消されることはない

七十三ページから
七十四ページにかけて
次のような言葉を見つける
「市井の言葉で
ものを書くことの重要性」
「日常の会話で使っている言葉、
生活の中で口にしている言葉を使って
ものを書くことの重要性」
それから
「『文学的』用語や
『詩もどき』言語を使わないこと」
言いたいことを正確に言い
それ以外の

余計なことを言わないことが
重要であると
カーヴァーは書いている

心の中で
炎が
燃えていることに気づいたら
その炎を消してはいけない
特に日当りの悪い場所にいる時には

 
『ファイアズ(炎)』は村上春樹訳

 
 
『自分にふさわしい場所』
著者:谷郁雄
写真:ホンマタカシ
発行:理論社
 

 
 
 

Yasu
  • Yasu
  • デザイナーを経て、クリエイティブディレクター、コピーライター、ライターに。「ベースボール」代表。広告&Web企画・制作、インタビュー構成をはじめ『深川福々』で4コマ漫画「鬼平太生半可帳」連載中。書籍企画・編集協力に『年がら年中長嶋茂雄』など。ラフスケッチ、サムネイル作成、撮影も。