オヤジ国憲法でいこう?
作家の髙橋源一郎さんが先週金曜日、NHKのラジオ「すっぴん!」で紹介していた『オヤジ国憲法でいこう!』という本を手にとってみた。
第1項「自分忘れのススメ」の書き出しはこうだ。少し長くなるが、引用してみる。
ヤングの大好物。それは……
まず最初は、退屈な退屈な個性のハナシである。
ヤングはまだお子サマのせいか、「個性」の話が大好きでしょ。「自分らしさ」、「ほんとうの自分」という話題は、ヤングのハートを直撃するようで、ものすごく身を乗り出してきたりするものだ。
ヤングが土手で自分らしさについて語り合うといえば、夕陽をバックにして、「将来、なにかオレにしかできないデッカいことをしてやるぜ!」のように、前向きなテイストで語ったりなどするものだった。
しかし、今日では「自分らしさ」の話題とは、「自分は『自分らしさ』がないんじゃないか」「将来の自分を考えようとしたとたん『そういえば、自分ってなんだっけ』と気がついて、なんにも思い浮かばなくてしょんぼりしました」というように、不安な気持ちや悩みとして語るヤングが多いと言われている。
ヤングには、暗黙のうちに、「自分が自分らしくいられたら、いまよりもいい感じに、いきいきと楽しく過ごせているはず」という思い込みがあるはず、とワシは思う。
ちょっとキミらに聞くが、そもそもいい感じに楽しく過ごしているときに、わざわざ「自分らしさ」を気にするようなものだろうか。
引用はここまでにしておくが、この文章を読んでいて、不特定多数のヤングでなく、ブラジル開催のW杯でGL(グループリーグ)敗退したサッカー日本代表を思い浮かべた。決勝トーナメント進出の望みをかけたコロンビア戦に、4-1で大敗したあと、「自分たちのサッカーができなかった」と選手が口にしたのではなかったか。
と書いている僕も、「自分らしさ」について何度も気にしたことがあるし、正直、いい歳した今でも、ふと考えてしまいそうになることもある。そんな人間に、この『オヤジ国憲法でいこう!』はおすすめだと思う。「自分らしさ」「個性」「自分探し」といったことの、とらわれの身になっている、すべての人へ。
そうそう、サッカーの話をもう少しだけ。もしも「自分(たち)らしさ」という言葉に、日本代表が縛られたのだとすれば、選手のほとんどがヤングだったからかもしれないとも思う。百戦錬磨の遠藤選手はコロンビア戦に出場しなかったし、前回の南アフリアW杯の中心選手だった中澤佑二選手(横浜F・マリノス)も、田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)も今回のメンバーに選ばれていなかった。
ブラジルが7-1でドイツに惨敗した試合では、主将のチアゴ・シウバが警告累積で出場できなかったことが最大の要因であるといったことが、さまざまなメディアに書かれていたが、サッカー王国ブラジルでさえもそうなのだ。
勝手に断言してしまおう(無責任に)。サッカー日本代表においても、それ以外のさまざまな場おいても、ヤングとオヤジ(ベテラン)のバランスのよい融合が、これからのテーマになってくるのだと思う。日本中で、そして世界でも。
「オヤジ国憲法でいこう!(増補版)」
著者:しりあがり寿、祖父江慎
発行:イースト・プレス