コンテンツの価値は、誰かの人生を変えらえるかどうかで決められる
(前略)「コンテンツとは、わかりそうで、わからないものである」と定義しましたが、「コンテンツの価値は、誰かの人生を変えらえるかどうかで決められる」とも思います。
『ルールを変える思考法』(川上量生、KADOKAWA)
ニコニコ動画を提供するDWANGOの川上量生さんの著書『ルールを変える思考法』には、川上さんなりの考えがいろいろ書かれている。川上さんの面白いところは、京都大学工学部を出ている、いわゆるエリートであり、IT企業を率いて成功している人物でありながら、マーケティングに毒されていなさそうだし、クリエイティブの力を信じていると思えるところにあるのではないか。
マーケティングに毒されていない、という表現はあたっているのかどうかというより、表現としてわかりにくいかもしれないが、以前、ネット上の映像で見たのか、記事で読んだのか記憶が定かではないが、楽天にしてもヤフーにしても、アメリカが最先端だという前提で(ヤフーはそもそもアメリカの会社だからしょうがないかもしれないが)、時代の先をいっているアメリカに学び、アメリカを参考にしつつ、日本の中では少し先へいけばいい、というようなビジネスモデルについて、川上さんがつまらない、と語っていて、非常にユニークな視点だと思った。
確かに、IT業界においてアメリカは世界最先端にいるのは間違いないだろうが、そこと視点をずらせば、必ずしも最先端でなくてもいいかもしれない。ニコ動だってそうだろう。YouTubeが動画アップロードサービスとして先に成功しかかっていたので、画面にコメントが入れられるサービスを開発したのではないだろうか。
川上さんは、YouTubeと差別化するために、ライブにこだわったとこの本で書いていたが、ライブであれば、すでにUSTREAMがあったのではないか。どちから先かはともかく、ニコ動は今でも独自の見え方をしているし、明らかには他と一線を画しているのではないか。あれだけ、映像につっこみを入れる、というのははっきりいって、映像が見づらいし、でも、つっこみの内容が面白かったし、その映像をどのくらい熱く見ているか(注視しているか)という、ユーザーの「体温」がわかったりもする。
天才でありながら、オタクでもある(と、簡単な言葉でまとめるのはよくないだろうが)川上さんの視点と思考は、素晴らしく、そして独特だ。気になる人、そして発想やアイデアや開発や経営に興味があったり、悩んでいる人は、読んでみるといい。
そうそう、ドワンゴは着メロのダウンロードサービスで大きな売り上げを上げていたこともあったが、そのことで「誰かの人生を変えられる」とは思えなかったという。川上さんのそのような思考に、鈴木敏夫をはじめとするスタジオジブリの影響があるとのこと。スタジオジブリは、ただ儲かればいいと考えているわけでなく、だからこそ、安易に、ヒット作の続編をつくらない、とも。
ものをつくることに多少なりとも携わる人間として、いろいろ考えさせられ、また刺激を受ける本であった。