おおたかいくこ(大高郁子)さんのプロフィールはこちら
大倉 大高さんは、学校を出てすぐに
イラストレーターになったのですか。
おおたか 大学を卒業して3年間、大阪のパッケージ
デザイナーの方の事務所でデザイナーを
していました。といっても、
実際はほとんどアシスタントでした。
グリコのアイスクリームやオハヨー乳業の
クリスマス用のパッケージデザイン
などをやっていました。
大倉 オハヨー乳業?
おおたか 岡山県に本社のある会社です。
大倉 あ、聞いたことあるような
気がしてきました。
デザイナーを経験したことは
その後、役に立っていますか。
おおたか 当時は手作業からMacに
切り替わるような時期で、デザイン事務所で
Macをさわっていなかったら
Illustrator(絵を描くのにも適した
アドビ社のソフトウェア)の使い方なんて、
分からなかったんじゃないかな。
その意味でもすごくありがたかったです。
当時はMac1台100万円くらいしていたと
思います(笑)。
大倉 そうですよね。僕も最初、グラフィック
デザイナーをしていたのでよく分かります。
僕が勤めていた広告制作会社は100人くらい
社員がいて、当時はデザイナー全員分の
Macを用意するわけにはいかず、
会社にMacを2台か3台入れて
最初はロゴを作るときだけMacを使う、
そんな感じだったような気がします。
あ、僕の話が長くなって
脱線していってもしょうがないですよね。
大高さんはデザイン事務所で働いているときに、
イラストレーターになろうと思ったのですか。
あるいは、それ以前から考えていたのですか。
おおたか もともとは全然考えてなかったんです。
デザイン事務所でアシスタントをしながら、
デザイナーに向いてないことを実感して。
絵を描くことはできるけど、自分には
デザイナーは無理だなぁと日に日に
強く思うようになりました。
イラストレーターになりたいというよりも、
絵しか描けないんじゃないかと思いはじめ、
絵を描いて個展をしたり、(イラストの)
営業をしたりしているうちに
いつの間にやら、イラストレーターに
なったというか。
「イラストレーターになろう!」という
熱い気持ちを持って、
なったわけでは全然ないんです。
見ていただきたい絵を、見ていただきたい人
に送ったり、バラまいたりしているうちに
ちょっとずつ仕事が来るようになり、
現在に至るという感じです。
大倉 デザイナーに向いていないと感じた
というのはたとえば、「文字やロゴを1mm
左に寄せて」みたいな細かな作業に向いて
いなかったとかそういうことですか。
おおたか そういうのもありますけど、デザイナーと
いうのは自分の世界観を出す仕事じゃない
じゃないな、と思って。
デザイナーの仕事は、こういう世界を求め
られたらこうやって、別の仕事ではまったく
違うようにするみたいなところがあると
思いますが、そういう部分で自分は向いて
ないなぁと感じました。
大倉 では、そろそろ、絵本について
お聞きしようと思います。この絵本は
聖書をモチーフにしていますよね?
おおたか そうですね。前回(2011年)の個展の
テーマが聖書だったので。
大倉 あ、そうですよね。僕も見に行きました。
あれっ、絵本に使われている絵もあのとき
展示されてましたか。
おおたか 展示していません。個展のあと、この絵本
のために搔き下ろしました。
大倉 2年前(2011年末)の個展のときから
聖書をテーマに絵本をつくろう
と思っていたのですか。
おおたか まったく思ってなかったです。
大倉 ということは、誰かから絵本にしたらどう、
とすすめられたとか?
おおたか そういうわけでもないんです。
ただ、絵本をつくりたいなぁ、と
前から思っていたので。
なんとなく、ですけどね(笑)。
大倉 聖書をモチーフに、というのは?
おおたか このお話はすごく有名ですし、たとえば、
外国の人でもというか、日本が読めなくても
わかるのではないかと思います。
また、時代にとらわれない
普遍的な物語といえます。
私自身は無宗教なのですが、
(教会の)日曜学校に行っていたこともあり、
ごくごく自然なモチーフでもありました。
大倉 たしかに僕もある程度知っているお話した。
聖書に出てくる話をちょっと書き直した、
という感じなのでしょうか。
おおたか そうです。聖書のマタイとルカの福音書など
をもとに、私がまとめました。
言葉もなるべく忠実に、
余計な色をつけないように、
なるべく「オリジナル」なお話
にしないように意識しました。
だから、若干硬めの言葉になってます。
といっても、聖書のままの言葉ではないです。
大倉 そうですよね。聖書に出てくる言葉は、
もうちょっと硬い感じがしますものね。
おおたか 自分なりに、言葉を整理したり、絵本として
違和感のないようにしたつもりです。
大倉 アートディレクションを担当された
おおうちおさむさんについては?
おおたか 加藤由子さんの『きょうも猫日和』(幻冬舎文庫)
でお世話になった、おおうちおさむさんに
アートディレクションをお願いしました。
今回、構成・編集協力をしてくださった
後藤光弥さんもその本に携わられているの
ですが、この絵本ではまた同じメンバーに
ごいっしょいただくことができました。
おおうちさんは、田中一光さんの事務所に
いらっしゃった方で、
『日本美術全集』(小学館)をはじめ、
ちょっと硬めの本をつくられています。
書籍以外でも、
アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真展の
会場構成のアートディレクションをされる
など、かっちりした仕事をされている方です。
大倉 そのおおうちさんに、絵本をお願いしたのは?
おおたか 絵本をつくるときにあまりかわいらしいもの
にしたくなくて、というか、あまり
フェミニンな感じのものにしたくなくて、
おおうちさんは基本形をかっちりとつくって
くださる方だと思ってお願いしたら、
面白がっていただいて。
大倉 色についてはどうですか。1色刷りですよね?
おおたか スミ(黒)1色で印刷しよう、と
おおうちさんに言っていただきました。
1色刷りを生かすため、
スミをしっかり刷ってください、と印刷会社
の方にもお願いをしてくださいました。
本の表紙についても、線を強調したい、
線をキレイに出してください、と
指示していただき、それに合う紙を
選んでいただきました。
表紙は羊毛紙という紙なのですが、
手触りがいいので、この紙に箔押しを
しようということになりました。
ただ、羊毛紙はどちらかというと
汚れやすい紙なのでカバーをつけよう、
ということになったのです。
大倉 なるほど。それで、
カバーがついているのですね。
おおたか 気軽に読んでいただくには
カバーはなくてもいいのかもしれませんが、
羊毛紙も捨てがたいので、
絵本がスッと入るカバーをつけました。
カバーの白い箔押しも気に入っています。
大倉 仕上がりだけでなく、原画もスミ1色ですか。
おおたか ええ。スミ1色で、
絵の大きさもほぼ原寸です。
大倉 画材は何ですか。
おおたか 付けペンです。
大倉 付けペンですか。たしかに、
線の太いところと細いところでは
けっこう差がありますものね。
おおたか ええ。
大倉 付けペンというと、マンガを描いたりする
あのペンですか。
スプーンペンとか、Gペンとかがある…
おおたか 丸ペンというのかな、普通に売っている
1つ70円くらいのペン先を、ペン軸に差し、
ロットリング用のインクをつけて描きました。
大高 えっ、ロットリング用の、ですか。
細くて安定した線が書けるからか、
あの製図用のペン(ロットリング)で
絵を描いている人がいるのは知っていますが、
ロットリング用のインクに
ペン先をつけたりできるのですか。
おおたか 注入式のインクが別売されていて、
そのインクを小さな梅皿(パレットのような
小皿)に入れて使っています。
ロットリングのインクは粘り気があって、
ぽったりした線が描けるんです。
大倉 そうなんですか。では、あらためて
絵本の中身に戻りますが
実は最後のというか、僕は絵本の終わり方に
びっくりしたんです。
ネタバレになるといけないので、あまり
ふれないほうがいいのかもしれませんが。
おおたか タイトルが『きよしこの夜』ですし、
(イエス・キリストが)生まれてからのお話を
あまり引っぱるのもどうかなぁと思いまして。
大倉 どういう人に読んでいただきたい、
というのはありますか。
おおたか 絵本にするために整理してまとめているので
クリスチャンの方が見るとちょっとちがうと
思われるところもあるかもしれませんが、
いろいろな人に見ていただきたいですね。
(2013-12-20)
「きよしこの夜」〜ある家族の物語〜
文・絵:おおたかいくこ
タテ191×ヨコ186mm
ページ数:40ページ
定価:1,500円(消費税別)
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published : May 2, 2009
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