絶対必見、芸術家兄弟

「橋本平八と北園克衛展」という展覧会のため、世田谷美術館へ行ってきました。世田谷区に足を踏み入れるのはひさしぶりでウキウキしながら、用賀からバスに乗って砧公園へ。

 到着すると、美術館の前に大勢の子どもがいるのでなにごとかと思ったら、見学でした。いや、正確には見学が終わったところです。

 うちの子どもが通っていた小学校かなぁと思いながら、しばらく子どもたちを見ていましたが、知った顔の子はいない様子。あとで、聞いてみたら、やはり、別の小学校でした。

 子どもたちに美術館を案内していた人たちのなかに、妻の知り合いがいたのでごあいさつし、その後しばらくお話をした。世田谷美術館には鑑賞リーダーというボランティアの方々がいて、子どもたちといっしょに美術館を巡るのです。その鑑賞リーダーの中に、妻と同時期に世田谷美術大学へ通っていた女性がいて、話をしたのです。世田谷美術大学といってもよくわからないでしょうが、区がやっている美術が好きな人のためのカルチャースクールのようなものでしょうか。世田谷美術館の人にいわせるのと違うのかもしれませんが。
 妻の知り合いとの再会を喜び、しばし歓談したあと、いざ展覧会場へ。

 展覧会じだい、正直言ってなめてましたが、すいませんという感じです。橋本平八さんと北園克衛さんのことをほとんど知らなかったのですが(チラシをちらっと見ただけ)、兄の橋本平八さんは画家にして彫刻家。弟の北園克衛さんは絵、詩、デザイン、写真などマルチな芸術家。北園克衛というのはペンネームだそうです。ラジオネーム、じゃなくて、アーティストネームといったほうがいいのでしょうか。

 兄さんの彫刻は日本的なのだけど、ただの和風とも違うような雰囲気もあり、と思っていたらフランス近代彫刻の影響もあると、解説パネルに書かれていました。
 弟さんは芸術機関誌のようなものを編集・デザインをしながら発行し、プラスチック・ポエムという写真を用いた詩を発表したり、いわゆる文字による詩も書き、アガサ・クリスティの作品集やロアルド・ダールの『あなたに似た人』などハヤカワ・ミステリ文庫の装幀も手がけています。
 どちらも、すでに装幀は新版に変わっているので、北園克衛さんの装幀にようアガサ・クリスティやロアルド・ダールをふつうに書店で見かけることはむずかしいと思います。当時の文庫をそのまま置いている本屋も、日本中探せばあるかもしれませんけどね。古書店で見つけるくらいだったら、たぶん可能でしょう。折り紙をハサミで切って、それをコラージュしたみたいなデザインといえばいいでしょうか。抽象的で品のいい表紙でした。

 お兄さんの彫刻は、伝統を感じさせながらも古いだけではないし、弟さんはセンスのかたまりのような作家。20世紀の前半から活動し、弟さんはかなり前衛的というか、デザイナーの走りみたいな存在だったのではないでしょうか。

 僕がもっとも印象に残ったのは、お兄さんの手による「裸形の少年像」。「らぎょうのしょうねんぞう」とむずかしい読み方なのですが(読み方はあとで知りました)、作品の前に立つと彫刻の少年と目が合いました。少年は僕の目を見ているというよりも、目のこちら側、いや僕の心を見られているような気持ちになりました。心の奥底を見透かされているような気もしましたが、なぜでしょう、それがイヤな感じではないのです。目を合わせていて、スーッとしたという感じでしょうか。それほど長い時間、少年と目を合わせていたわけではないのに、目をつぶって深く深呼吸をしたように、胸なのか心なのかがスーッとしました。
 弟さんからは創作に対する姿勢やピュアな芸術家魂、闘う気持ちなどを学びました(何かに生かさなくては、ですね)。

 ものをつくる人にも、そうでない人にもおすすめしたい展覧会です。12月12日の日曜日までで、月曜休館。会期はあと1週間ちょっとですが、お時間のある方は足を運んでみてください。
 
 

Yasu
  • Yasu
  • デザイナーを経て、クリエイティブディレクター、コピーライター、ライターに。「ベースボール」代表。広告&Web企画・制作、インタビュー構成をはじめ『深川福々』で4コマ漫画「鬼平太生半可帳」連載中。書籍企画・編集協力に『年がら年中長嶋茂雄』など。ラフスケッチ、サムネイル作成、撮影も。

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